第28章 凍える熱情
<<ワォ…向、なんか怒ってない?>>
『……っらぁ!!!』
向が分厚い氷壁に穴を開け、轟の姿を目にしたのは一瞬。
彼女が飛び込んできた穴に向かって、轟が氷結攻撃を仕掛ける。
ベクトルを変換、急加速し、氷壁をくぐってきた彼女と自身の身体を会場の目から隠すように、轟はドーム状の氷壁を、2人の周りに創造した。
『……耐久戦に持ち込みたいの?』
陽の光の通らない、薄暗い氷のドームの中で。
低く、問いかけてくる彼女の声が、背後の氷壁に背を預けたまま、俯く轟の耳に届く。
「……向」
『……なに』
「少しでいい。少しでいいから」
落ち着くまで、時間が欲しい
「…じゃないと、上手くコントロール出来そうにねぇ…おまえに、大怪我させる。身に覚えがあるからわかる、今おまえと戦いたくない」
『………。』
彼女が、どんな表情をしているのか。
こうも暗い場所の中では、目にすることができない。
それは向も同様。
轟が、どんな感情をその顔に滲ませているのか。
わからない。
『…………焦凍』
「悪ィ。おまえがどうして怒ってるのかわかってる。でも…俺だけ、助かる気はねぇよ」
『…』
「……向」
そして、轟は囁くように、言葉を発した。
「おまえも…一緒に」
「どうなってんだ?ヘイ、あのドームの中までキャメラマンダッシュ!!」
「…なにやってんだ…?」
なんの音も聞こえてこない、轟が生み出した氷壁のドーム。
静まり返った会場はドームの中から聞こえてくる音に耳を澄ませていたが、一向になんの動きも見せない両者に、少しずつざわつき始める。
「なぁ、なんで向あんな怒ってんの?」
マイクの電源をオフにして、マイクが隣に座る相澤に問いかけた。
「…俺が知るか」
「なんでよ。一緒に住んでんだろおまえら」
「居候の個人情報を家主が全部把握してると思ったら大間違いなんだよ」
「じゃあおまえは何なら知ってんの?」
「何も」
「何も!?オイオイそりゃあぶねーってイレイザー。このご時世プロヒーローの家に得体の知れない子猫ちゃんを置いてたってのか?」