第4章 怪しげな少年BとT
『……なに?』
一瞬。
彼女が爆豪の存在を認識し、ハッとした顔をした後、すぐに笑って、隠すように顔を背けた。
「……なんだその面白ェ鼻」
『面白い?かっちゃんはユーモラスだなぁ、私の鼻は生まれつきこんな形だよ』
ははは、と渇いた笑い声をあげて、彼女が自分の顔に大き過ぎるサイズのマスクをした。
血まみれになっていたジャージを、見た目の清潔感を手に入れる代わりにびっしょびしょにしてしまってから、乾かす手段を持っていないことに気づいたらしい。
力いっぱいジャージを絞っていた彼女が、何度目かのチャレンジの後、すがるような目で爆豪を見つめてきた。
『…あのぅ……かっちゃん』
「その呼び方やめろブッ殺すぞ」
『…は?名前じゃないの?』
「な訳ねーだろ、調子に乗んじゃねぇよ」
『え、なんで調子に乗るの?』
「ちょっと心配してやったらテメェがそんな馴れ馴れしい態度返してくるからだろーが!」
段々とヒートアップしていきそうな気配を感じ、向は一度口を閉じた後、それでも納得がいかないというように眉間にしわを寄せた。
『かっちゃんがいつ心配してくれたの?馬鹿にしただけだよね』
「だから…っやめろっつってんのがわかんねぇのかテメェは、そんなこともわかんねえ脳みそ空っぽクソバカ野郎か!?」
『あーまた馬鹿にした、やめてよ今こうやって話すのも辛いくらい本当は鼻めちゃくちゃ痛いんだからね?』
そこまで言って、向はまた口を閉じた後、何かを考えた。
そして数秒後、またあっけらかんとした口ぶりで爆豪に問いかけてくる。
『…なんだその面白ェ鼻っていうのは心配してくれた言葉なの?』
「うぜぇ、とっとと除籍でもなんでもされて俺の目の前から失せろ」
『…いなくならないよ』
爆豪が立ち去ろうとする直前、向は『あーそうだ!』と大声を出した。
苛立ちながらも無視できず、振り返った爆豪に、向は目元しか見えない真っ白な顔で笑みを作り、提案してきた。
『ジャージ、乾かすの手伝ってくれたら…みんなより一足先に私のタイム、教えてあげてもいいんだけどなぁ』
どこかに、私を助けてくれるカッコいいヒーローはいないかなぁ。
そう最後に付け足して、向はただじっと、固い決意の炎が灯った目で爆豪を見つめた。