第21章 仰げば尊し、我が師の恩
幼い頃から、僕は優等生だった。
教師にも、クラスの仲間にも恵まれ、何不自由ない環境で、すくすくと成長して。
何事も勤勉に、努力は絶対に裏切らない。
そんなモットーを掲げ、常にいつか兄と並ぶに相応しいヒーローになる日を夢見て、粉骨砕身、脇目も振らず、憧れへの道を邁進し続けた。
「天哉さんは本当に優秀で、素晴らしい生徒ですわ」
「どうやったらこんな子に育つのか、教えていただきたいほどですよ!」
「さすが、人々を救うヒーローを目指すだけのことはあります」
三者面談や、保護者同士の懇談会が開かれる度。
「天哉は頑張ってるのねー、たくさんの方に褒めていただいちゃった!」
僕の母は、謙遜疲れをするほどの賞賛の言葉を浴びて帰宅した。
それが、当たり前だった。
自慢でも何でもない。
僕にとっての「普通」の生活。
「飯田は、第一志望雄英に決めたんだよな?」
「はい、先生!僕は雄英高校ヒーロー科で、兄のような立派なヒーローになるべく、精進を続けようと思います!」
「その心意気良いぞ!おまえなら絶対にヒーローになれる!」
「ありがとうございます!!」
中学三年間。
僕は、クラス替えで一度も離れることのなかった男性教師の指導の元、受験勉強に励み続けた。
「飯田、おまえ雄英受かったって?」
「あぁそうだ!田中くん、君はどこに行くことになったんだ?」
中学の卒業式。
一年生の頃から同じクラスで、一番仲が良かった田中くんと、そんな話をしながら校舎を出た。
ヒーロー志望だった田中くん。
けれど、僕は彼が雄英に受かったという知らせを聞いてはいなかった。
「なんだよそれ、ずるいよ、飯田」
「ずるいとは何だ!僕は日夜、文武両道に励んでいる」
頑張っているのだから、当然だ!
何の気なしに言った僕の言葉に、田中くんは笑って、突き放す様な言葉を発した。
「飯田にはわかんないよ」
「ん?」
「飯田ー!卒業しても遊びに来いよ!」
「…先生!ありがとうございます!」
校舎から、明るく手を振る僕の恩師は。
「…えーっと、おまえも!元気でな!」
結局、最後まで。
僕と変わらず、同じクラスに在籍し続けた田中くんの名前を、覚えることはなかった。