第16章 朝焼けに佇む
4限目が始まる直前。
向は教科書を机の中にしまいこみながら、軽くため息をついた。
それを見ていた爆豪の頭の中で、即座に、彼女に使うべき言葉の候補が羅列される。
1.「どうしたよ」
2.「辛気臭ぇ、黙れや」
3.「クソ深晴、黙れや」
4.「どうしたん?俺に話してみ」
(………3)
という選択肢を選びかけ、口を開いて、すぐに閉じる。
なんだか嫌な予感がしたからだ。
自分の勘には従っておいたほうがいい。
その根拠は、自分の中にある野生の直感。
理論立てた根拠というわけじゃないが、確実にこの3番の答えではない。
(……4はクソきめェ、無し)
となると、1か2かの二択。
どちらがこの場合、好ましく思われる言葉なのか。
爆豪は数十秒を使ってその答えを導き出そうと、自分の座席で向を見つめながら熟考する。
そして。
(……1)
という結論を導き出した後。
どうし、まで言いかけた爆豪の言葉に被せるように、反対側の向の隣に座る上鳴が声を発した。
「どうしたん?俺に話してみ」
「アホ面!!黙れや!!」
「は!?朝からピリピリしてんなー、牛乳飲め牛乳!」
「てめェの言葉がきめェから言ってんだろうが!!」
「アーーーン?俺は友達がため息ついてるから心配しただけですけどーー?」
ブッ殺す!と計算も何もなしに口から飛び出た言葉を聞いて、向が爆豪に視線を向けた。
『ブッコロはよくない』
「うるせぇ!てめェも黙れや!!」
『黙らない。勝己、質問があるんだけど』
「あァ!?」
『いつも体育着の下に着てる黒のスポーツ用タンクトップ、どこのメーカーの物か教えてくれない?』
「なんで今タンクトップが関係あんだよ!!」
『ははは、なんか勝己大抵ブチギレてるから空気読むのとかめんどくさくなっちゃって』
文脈必要としない人に文脈必要ないでしょ?
なんて馬鹿扱いしてくる向に怒鳴り散らしそうになり、爆豪は歯をギリギリギリという音が鳴るほど食いしばる。
『わぁ、歯が欠けちゃう。大変』
「…てめェ、さも自分は賢いですってツラしてやがるけどよ…2限目の古文の小テスト、結果知ってんだからな」
爆豪の言葉に、向はハッとした後、すぐさまふいっと視線を逸らした。