第15章 ただいま
15分ほど二人がバスルームへと姿を消した後。
ドタンバタンという衝突音が聞こえてきた。
いでででお助けぇぇィイYEAHHH!という独特な叫び声をあげたマイクと、息を切らした相澤が、その後すぐにリビングへと戻ってきた。
ボッコボコに顔が腫れているマイクを見て、向は昼食の準備で運んでいた皿を取り落としそうになる。
『何があったんです?』
「…いや…ノリに乗って際どいとこまで洗おうとしたら蹴る踏まれるなどの暴行を受けた」
「汗流すだけでいいっつったろ…!」
『いい歳した大人が何はしゃいでるんですか』
お前いいからとっとと帰れ!と尚も蹴りつけてくる相澤の仕打ちに涙目になりながら、マイクが「ふーんだ!せっかく気ぃきかせてやったのに!」とヘソを曲げ、飛び出して行った。
「…あいつ、何しにきたんだ…」
『身の回りのこと手伝いに来てくれたんじゃ』
濡れた犬のように髪がペッタリと顔に貼り付いている相澤を見て、向がクスクスと笑った。
『髪、乾かそっか』
「……。」
二人がけソファに、二人で乗って。
(…なぜ、後ろを向かないんだろう)
背を向けようとしない相澤と向かい合いながら、向は彼の髪にドライヤーをかける。
せめて後ろで縛ったらいいのに。
なんて提案する向の瞳をじっと見つめたままの相澤に、向は一瞬、動揺してしまう。
『……はい、終わったよ』
髪が乾かし終わるまでの間、ぼんやりと向を見つめ続けていた相澤が、不意に倒れこんで来た。
肩に埋もれるように、もたれかかってきた彼の髪から香るシャンプーの匂いが、向の鼻先をくすぐった。
『…消太にぃ?』
「疲れた」
『……うん』
「眠い」
『……うん』
「守れなかった」
相澤が、一言だけ零した自責の念。
向は静かに、その言葉を受け止めて、相澤を抱きしめた。
『そんなことないよ。みんな、明日からも元気に学校に来れるのは、消太にぃがちゃんと守りきったからだよ』
それと、言い忘れてる。
そう言った向の腕の中で、相澤は、振り絞るように、震える声で囁いた。