【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
「お言葉ですが、八重様には旦那様の作法とやらの前に、まずは茶道、華道、書道を習っていただきます」
それまでの和やかな空気を一変させる、刺々しい口調。
「“御実家”では十分に習得なさる機会を得られなかったでしょう」
赤葦は慣れた手つきでナイフとフォークを皿の上に置くと、感情をほとんど見せない瞳を八重に向けた。
英国育ちであるから日本語に不慣れかと思えば、会話は問題ないようだ。
しかし、“読み書き”となると、どの程度できるか分からない。
「木兎伯爵家の御令嬢として、日本の社交界に合った礼儀作法を身に付けていただかなければなりません」
その言葉は、“家令だから”で済ませるには辛辣すぎた。
赤葦の言葉には反論しないように努めてきたつもりだが、さすがに八重のフォークを持つ手が震える。
「それは・・・私の礼儀作法がなっていないということ・・・?」
「いいえ、そのように言っているわけではございません」
「・・・・・・・・・」
「ただ、八重様の恥は、木兎家の恥。家令として、当然のことをお願い申し上げているだけでございます」
有無を言わせない圧力を全身から漂わせる赤葦に、さすがの光太郎も言葉を挟まずにはいられなかった。
「おい、赤葦! 何もそんな風に言うことはねぇだろ」
「・・・申し訳ございません、言葉が過ぎました」
素直に頭を下げた赤葦に光太郎もすぐに気を取り直し、八重に笑顔を向ける。
「八重の父上、貴光殿はすごく礼儀正しい紳士だと母上がいつも言っていた。大丈夫だ、お前がうちの恥になるようなことは絶対ない」
光太郎の言葉があまりにも楽観的だと思ったのだろうか。
赤葦は何かを言いかけたがグッとこらえ、代わりにグラスに入った水を口に含んだ。