第3章 バレンタインデーイブ
『だから…ね、徹「こんな伝え方しか…できなくて…」
『ちょっと…ねぇ聞「でも、本気だったんだ…ずっと、俺…春華が」
そこまで言ったところで、パン!!!と両頬に軽い痛みが走る
春華の小さな手が、俺の両頬を挟んでムニッと中央に寄せられている
きっと格好の良くない顔にされているのだろう。
「春華…?」
『人の話を!聞け!』
「ひゃ…ひゃい……」
真っ赤になっている春華が、睨みつけるように俺を見つめる
いつも笑っている彼女のこんなに感情を表に出した顔を見るのは久しぶりだ。
『あの先輩は!ただの先輩
徹に当日あげなかったのは!……っ』
そこまで言って
さらに赤みを増していく彼女の頬が
俯いて、見えなくなってしまう。
もっと見せて欲しいのに、
でも、そんな顔をされたら期待してしまう。
及川は頬を挟まれている両手を掴んで
握りしめた
「…ね、俺の自惚れだったら、嫌だって言って?」
確認印を押すみたいに、ゆっくりと唇を近づける
動く気配のない唇に押し付けると
心の中が満ち満ちていった
「春華…俺と付き合ってくれる?」
『……5歳も違うのに…いいの?』
返事の代わりにもう一度軽いついばむ程度のキスを落とす
体が離れると、白い制服のジャケットには、べったりとサーモンピンクのキスマークがついてしまっていた。
春華は焦ってハンカチを取り出し、拭こうとしたが、
及川に手を掴まれてそれを阻止される。
『明日も着るでしょ?取れなくなっちゃうよ?』
不安げに眉を垂らす春華に、及川は薄っすら微笑んで首を横に振る。
「いや、このままで学校行く
やっと片思いが実ったってみんなに自慢したいから、証拠にする」
彼女の顔は、なんでこうもお手軽に赤くなってしまうのだろう。
鎖骨まで紅を帯びた春華を眺めて
及川は満足げに笑った。
二人の足元の雪は、熱にやられたかのように溶けていた。