第28章 秋の夜長に春ひとつ
「ありがとうございました~…」
カラカラ…乾いた音を立てて
ゆっくり閉じられていく扉に
小さくお礼を言いながら
カウンターに残されたどんぶりを掴む
気持ち残されたスープを水で流して
ちらりと壁時計を見上げた
針はちょうど20:00を示してて
外から微かに聞こえる
虫の鳴き声と
テレビから漏れる
音楽番組の司会者の声だけが
人っ子1人いない、
がらん…とした店内に響いて
活気のない店の
静けさをさらに強調してくる
金曜日の夕飯時に閑散としてる
ラーメン屋なんて…
「…やめたほうがいいのか、な……」
誰に言うでもなく、
1人肩を落としながら呟いて
しばらくして頭を左右に振った
俺が弱気でどうする…っ
親父さんとお袋さんが
大事に、大事に育ててきたこの店……
守りたい、残したいって…
俺から志願したんじゃねぇかよ……っ!
いろんなこと覚悟して、
これに賭けるんだって…
ココロに誓ったんじゃねぇか…!!
少しだけじわっと浮かんだ涙を
袖で乱暴に拭って
悔しさやら、悲しさやら…
胸の奥底から沸き上がる
複雑な感情が暴れださないように
両拳を硬く硬く握りしめた