第23章 君がいいんだ
「顔を、上げなさい」
静かな声色に恐る恐る顔を上げる
お父さんは無表情のまま僕たちを一瞥して
小さく溜息をついた
あ、呆れられてる…の、かな……
「智と君が、知り合ったきっかけは?」
思ってもみなかった言葉に一瞬固まるけど
意を決して経緯を話した
僕と智くんの出会いから
付き合うことになるまでのこと
そして、同棲してからのこともきちんと話した
延々と話す僕の言葉を遮ることもなく、
お父さんは全部聞いてくれた
全てのことを話し終えてもお父さんは黙ったまま
どうしよう…やっぱり、怒って……
「ありがとう、雅紀くん」
慌てて何か言葉を続けようかとした時
お父さんがようやく口を開いてくれた
「智のこと、よろしく頼むよ」
にっこり、目元にしわを寄せて優しく微笑んでくれた
「お父さん、僕……雅紀さんといていいの?」
「ぁあ…もちろんだ」
「やった、雅紀さん!やったよっ」
《嬉しい、ずっと、ずっといられる…》
固まる僕に抱きつく智くん
う、嬉しいけど…ほんとに現実…?
むにっと左頬をつねってみたら痛かった
「現実、だ…」
痛みでやっと、実感した
「ありがとうございますっ!」
また勢いよく頭を下げるとお父さんがハハッと豪快に笑った
「もともと、私は智のこと頼むつもりだったんだよ…」
「え?どういうこと、お父さん…」
顔を上げて智くんと目を見合わせる
「同棲してる、と知った時から
智の心の支えになってくれるほどの人がいるんだ…と、逆に喜んでいたんだ。
…今日は、その相手と話がしたかったからここに来てもらっただけなんだよ」
温かみのある言葉に一気に緊張が抜ける
深い息を吐いた僕の肩に大きな手が触れた
「智のこと、頼みます」
《君になら、まかせられる》
優しい心の言葉に涙が滲んできた
「はいっ…大切にしますっ!」
「ははっ…娘を送り出すような気分だな」
目尻に溜まった涙を拭って智くんを見つめる
「智くん、僕とずっと…居てくれる?」
「もちろん…!返品不可だって、言ったでしょ?」
「そうだった…」
お互い微笑んで、手を握り合う
僕に勇気をくれた君とずっと、ずっと…
手を取り合って生きていく
喧嘩して、仲直りして…
たくさんの気持ちをかわしながら
君との、人との関わりを大切にしていくよ
- end -