第12章 自由で、天然で、でも………
今にも雨が降ってきそうな曇り空の中、ティータイムからは外れた時間帯のカフェはまばらにしかテーブルが埋まっていなくてとても静かな空間
俺はその静かな空間で曇り空を視界の端に捉えながらコーヒーを啜っていた
目の前の自由人、雅紀はとてもニコニコしながら俺を見つめてコーヒーを啜っていたかと思うといつものように頭に浮かんだことを口にし始めた
「そうそう!この前さ、翔ちゃんがさ〜」
こういう感じにいつも話の中であがってくる翔さんの名前
悪気とかはない、とわかってるけど今日はその発言が気に障った
だって、今日は俺の誕生日、だから……
せっかくの誕生日当日にデートしてるんだぞ?
恋人の年イチの誕生日当日だぞっ?
それなのに
「でねでね!翔ちゃんがさ?焼きたてタケノコ、頬張ったらもうすっげ可愛くって!スタッフさんとかもニコニコでさぁ〜」
俺の顔色なんか分からないのか未だにずっと嬉しそうに話す雅紀
なんで特別な日にその話聞かなきゃいけないんだよ?
今お前は誰といるんだ?翔さんなのか?
俺だろっ!?
外の天気のようにジトッとその顔を見つめるも当の本人は全く気づかないようで俺の顔を見つめ返して首を傾げる始末
それに苛立って
「……お前さ」
「???」
「そんなに翔さんがいいなら、翔さんと付き合えば?」
自分でも驚くほど低くて感情の起伏の少ない声でそう言い放ってた
口から出てしまったものは取り消せなくて
ガタンと机を揺らして俺はその店から1人で飛び出した
追いかけてくるかと思ったけど俺が揺らしたその店の扉は再び揺れることはなくて
両拳(りょうこぶし)を握り締めて振り返ることなく俺は足を進めてその場を離れた