第12章 小さな亀裂
紡「みなさん、気持ちの切り替えはいいですか?」
控え室として使わせて貰っている場所で、紡ちゃんがみんなに声をかける。
今日はこの駅前広場で、アイドリッシュセブンのミニライヴをする。
あれから昨日まで、時間があればみんなレッスン場に集まってはそれぞれ気になる所を練習してるのを見てきた。
紡ちゃんの話だと、ミニライヴの終盤でデビュー曲となるあの新曲をここで初出しするって聞いた。
ドアを薄く開けて外を見れば、そこには色とりどりのうちわや応援グッズを手にしたファンのみんなが、メンバーの登場を今か今かと待ってるのが見える。
こういうの···いいな···
みんなの盛り上がりを目の当たりにすると、社長から手渡された千の曲が頭を過ぎる。
どれかひとつって言ったのに、まさか全部の詞に曲をつけてくれるとか···思ってなかったからビックリして。
すぐに千に電話をしてみれば···
千「あの中からひとつだけだなんて勿体ないから」
そんなサラッとした言葉を千が笑いながら言ってた。
それから。
今度お蕎麦屋さんに行こう···とか誘われたけど。
楽にそっくりな店員と、私にそっくりな看板娘がいる楽しいお蕎麦屋さんだから、とか。
···千、それ絶対わざとでしょ。
先が思いやられる···とため息を吐けば、隣にいた紡ちゃんと視線が絡む。
紡「なんだか大きなため息でしたが···」
クスクスと笑う紡ちゃんに、私も釣られて笑顔になる。
『ちょっとねぇ···千に今度ご飯行こうって誘われたんだけど、行き先がね···』
紡「凄い!あのRe:valeの千さんに誘われるとか···愛聖さんて凄いです!」
キラキラと目を輝かせる紡ちゃんに、そうでもないよ?と笑って返す。
紡「でも、正直···羨ましいですよ?あんなスーパーアイドルの人から食事に誘われるだなんて」
『コラコラ紡ちゃん?ここにはスーパーアイドルのタマゴがいるでしょうに···千や百ちゃんは、昔からの仲良しだから、きっと向こうは私のことを妹とか、そんな感覚なんだと思うよ?ほら···なにかといろいろ心配かけてばかりの手のかかる妹?とか』
これまでの事をいろいろと知っている紡ちゃんに言えば、私の言葉を聞いて紡ちゃんも苦笑を見せた。