第2章 7つの原石
それは、まぁ···家賃の代わりみたいなもんだし。
1円もお金取らない万理に申し訳ないというか。
万「愛聖が持ってるお金は、いつか困った時の為に大事にしときなって」
『私、結構いま困ってるけど?無職、居候だし?』
万「俺もいま困ってるよ?愛聖が聞き入れてくれないから」
ツンとつつかれて、思わず苦笑がこぼれる。
こういう所、ズルいなぁ。
『じゃあ、万理の言う通りにする』
万「はい、お利口さん」
『···ってことで、万理。シュークリームも買っていい?』
照れ隠しでレジ前に置かれてるシュークリームを取ってカゴに入れる。
万「言っとくけど、愛聖···」
『夕飯食べないとシュークリームとウサちゃんりんごはダメだからね!···でしょ?』
万「ご名答!」
カゴを持つ万理とその横を歩く私の会話を聞いて、側にいたおば様達が新婚さん?と言ってクスリと笑いながら通り過ぎて行く。
万「参ったね···」
『···だね』
なんとなく恥ずかしくて、お互い顔を合わせて苦笑いを浮かべる。
万「···行こうか?」
『そうだね、旦那様?』
万「おいおい···」
軽く冗談を言いながら隣を歩き出す。
でも、ひとつだけ考えるのは···
特に何も変装とかしてないのに、私って意外と気付かれないんだ···ってこと。
仕事がたくさんあって忙しかった頃は、どんなに雰囲気を変えて出掛けても、すぐに私だとバレて囲まれてしまっていたけど。
こんな風に仕事もなくて、人知れず八乙女プロダクションから外の世界へ出ていても誰も私だと気付かない。
すれ違う人が時々振り返るのだって、私じゃなくて万理を見てる人ばかりだし。
···ちょっと。
『楽しいかも』
つい、口に出した自分に笑いながら夜空を仰ぐ。
万「ん?なんか言った?」
『べ・つ・に?それよりさ、夕飯作るの私も手伝うね』
万「え?そ、それは遠慮しとこうかな···アハハ」
『今度は大丈夫!失敗しないように頑張るから』
これまで私が調理した、独自の創作力溢れる作品を思い出しながら言うと、万理はう~ん···と曖昧に返事をする。
その何とも言えない様子を見て、私は···これからは時間たくさんありそうだから、料理くらい出来るように勉強しようと心に決めた。