第2章 7つの原石
小鳥遊社長が万理の部屋に来て話し合った日から3日。
遂に···八乙女プロダクションへの訪問をする日が来た。
まさか、こんなにも早くこの日が来るとは思ってなかった。
それまでは毎日いろいろな事を考えてなかなか寝付けなかったり、昼間は万理の部屋でひとり簡単に掃除や洗濯をしながら過ごして来たけど。
いざ、今日これから···と思うと。
緊張で表情も動かない。
万「愛聖、気持ちは分かるけどちゃんと食べないと」
テーブルを挟んで座る万理もそれに気が付いているのか、ほら、甘い卵焼き冷めちゃうぞ?なんて笑っている。
『万理、私···これで良かったのかな?』
食が進まず箸を置いた私に万理が苦笑を向けた。
万「社長の提案には俺も驚いたけど···でも、俺は間違った選択だとは思ってないよ。最初はいろいろ大変だと思うけど、愛聖なら大丈夫」
小鳥遊社長の話では、既にアイドル予備生というのが存在していて今はそちらに力を入れているし、私は私で現状を落ち着ける所からがいいと生意気にも意見してしまったから。
キャリアはあっても、事情を踏まえて研究生からスタートしてみようか?と提案されて私はそれにひとつ返事で頷いた。
研究生···今の私にはそれだって豪華過ぎる待遇なんだけどね。
万「とりあえずちゃんと食べとかないとダメ。いざ八乙女社長と対峙した時に踏ん張れなかったら困るだろ?はい、ア~ンして?」
目の前に卵焼きを差し出され、自分で食べられるからと言っても笑顔を崩さない万理に仕方なく口を開ける。
『···甘い』
昔から馴染みのある母さんと同じ味。
万理がそれを作れるのは、母さんが万理に作り方を教えたからだけど。
ほっとする、味。
全盛期で忙しかった時も、千も黙って同じ物を作ってくれたっけ。
母さんは万理に。
万理は千に。
同じ作り方を···教えてたから。
千···黙っていなくなった事、怒ってるよね。
あの日から何度も着信はあるものの、一度もそれを取らなかった私。
千どころか、百ちゃんも、楽や龍からだって着信はあった。
でも、それを取ることは出来なかった。
最終的には電話に出ない事が心苦しくなって、電源自体を落としてしまったし。
いつか···また千に会う事があったら。
引っぱたかれる位は覚悟しておこう。