第6章 BLESSED RAIN
最後まで客席で···と思っていたけど、こういう状況だから仕方ないかな。
それよりも、気持ちが落ち着いてきたせいか少し寒い気がする。
自分で自分を抱きしめるようにしてみれば、体中がヒンヤリと冷え切っていて。
これは寮に戻ったらしっかりゆっくり、湯船コースじゃないとダメかも。
万「お疲れ、愛聖」
スタッフルームにいるはずの万理の声と共に、ふわりとした感触に包まれ驚きながら振り返る。
『万理?ビックリするじゃない。それにこのタオルって今日の物販の···』
私を包むほどの大きなタオルは、今日のライヴ用に準備された物販グッズで “ IDOLiSH7 ” とプリントされている。
万「社長が愛聖にって。この雨の中、レインコートもなしでいるとか無謀過ぎだろ···全く、どこもかしこも冷え切ってるじゃないか、この···お転婆娘が」
『痛っ···ちょっと!って、万理?!』
前髪が張り付いたおでこに制裁を受け、顔はやめてよ!と抗議しようとしたのに万理の腕に閉じ込められてしまう。
万「風邪なんてひいたら困るだろ?ちょっとだけ、俺の体温···分けてあげるから」
『それはありがたいけど···でも、万理?この体制じゃ、ステージが見えないんだけど?』
向かい合わせで抱きしめられていると、当然、ステージなんか見えないわけで。
万「ごめんごめん、なんたって今日の愛聖はチケット持ってるお客だしね?じゃ、はい、くるりんぱ···っと。これなら寒くもないし、ステージも見えるだろ?」
後ろから抱き竦めるかのように腕を回し、万理が笑う。
これはこれで···恥ずかしいけど。
万「俺もこのまま最後まで見届けようかな···あの子達の頑張りを」
言いながら万理が私の頭に顎を乗せ、コツンと頭に重みが掛かる。
『万理、重たいよ』
万「体温分けてあげてるんだから、少しだけならいいだろ?」
『ん~···じゃあ、良しとしますか?』
万「そうしましょう」
『それを万理が言うのは変じゃない?』
万「まぁそう言わずに」
しょうがないからそういう事にしといてあげるよ、と笑って、私も少しだけ万理に体を預けてステージを見守った。
濡れたシャツ越しに伝わる万理の体温は、ステージが終わるまで、ほんのりと私の背中を暖めてくれていた。