第1章 輝きの外側へ
あの日、千達のライヴの帰りに初めて声を掛けられた時こそ、なんてぶっきらぼうで無愛想で···もしかしたら怪しい人かも知れないと思ったけど。
八乙女プロダクションに生活の場が移ってからは、そんな印象さえあっという間に変わっていって。
忙しい中で時間が空けばレッスン場へ顔を出してくれたり、時には外へ連れ出してくれたり。
母さんが逝ってしまった時も、葬儀やその他の手続きを全て執り行ってくれたりして。
それから、ひとりになって泣いたりしないように、一晩中そばに置いてくれた事もあった。
急にクビだと言われて追い出された時は、鬼や悪魔を人の形にしたら、きっとこんな人だと心で責めたけど。
でも···
今こうして小鳥遊社長との出会いを考えると、私にはこの世界しかないんだと目を開かせてくれたような気さえして来る。
だったら、小鳥遊プロダクションに籍を置く前に。
最後にもう一度···会いたい。
門前払いされるかも知れないけど、それならそれでもいい。
私がこれから進む道で、後悔なんてしないようにケジメをつけたいから。
『あの。八乙女社長との面会に、私も連れて行って貰えないでしょうか?』
小「それは構わないけど、どうして?」
『私の中で、線引きをしたいからです。最終的には解雇になり追い出されてしまいましたけど、それまでは私を育ててくれた大切な人···なので。小鳥遊プロダクションに籍を置かせて頂く前に、もう一度···会いたいんです』
小「大切な人、か。八乙女をそう思ってくれる人がまだいるなんて貴重だよ。昔はあんなじゃなかったからね、彼は。あ、でもちょっと片鱗はあったかな?」
フフッと笑う小鳥遊社長に釣られて、私も笑ってしまう。
万「社長、お口に合うか分かりませんが···」
そう言って食事を運ぶ万理を見て、また笑顔を見せる。
万「愛聖も、新しい生活の最初の食事だよ?ちゃんとよく噛んで食べる事。分かった?」
小「じゃあ、僕もかな?」
万「社長···」
何気ない会話。
誰かが作った温かい食事。
誰かが側にいる空間。
いまこの一瞬を、ずっと忘れないでいよう。
私の居場所を作ってくれた、大切な人達の事を。