第4章 バレンタイン
「?」
一体何だ、とリヴァイがしげしげと見つめていると、それに気づいたが微笑む。
「先輩、今日はバレンタインなんですよ。ご存知でしたか?」
その言葉に、リヴァイの中でピンと合点がいく。
(これが、チョコレートか)
実を言うとリヴァイは、チョコレートを見たことが無かったのだ。
もともと菓子が食べられるような環境で育ってきていない上に、特に好んで甘いものを食べることもなかったので、話に聞いたことはあったが実際にこの目で見たのはこれが初めてであった。
ホカホカと湯気を立てる紅茶の隣に、ちょこんと可愛らしく置かれた茶色の粒を見下ろしていると、先程ハンジが言っていた事が思い出されてくる。
(好きな人や、普段お世話になっている人に・・・・)
リヴァイは、一粒つまみ上げるとポイと口の中に放り込んだ。
「甘い」
もぐもぐと口を動かせば、その度に甘味が強くなる。こんなに甘いものを食べたのは、生まれて初めてのことだ。
特に甘味が好きな訳ではないリヴァイにとっては、甘すぎるくらいの食べ物である。だが、その甘さは全身を包み込むような柔らかさで、リヴァイの心を幸福感で満たした。
「美味いな」
リヴァイは、の前でしか見せたことのない穏やかな表情で言った。
破顔するほどの笑顔ではない。だが、確かに微笑んでいるその顔が、は大好きだった。
「ありがとうな、」
小さな声で言われた言葉に、は頬を染めて頷いた。