第4章 バレンタイン
リヴァイはエルヴィンの机に向かって歩いていった。
見れば、カラフルな箱の山は事務机の上だけではなく、机の周辺の床にも出来上がっていて、ついでに言えば応接セットのテーブルやソファの上にまで箱の山が積み上げられていた。
決して年若いとは言えないエルヴィンが、自らこのようにカラフルな物を選ぶことはない。彼の周りにはいつも落ち着いた色合いの物が置かれ、明るい色の物と言えばせいぜい赤い表紙の本くらいのものだ。
「何か、甘い匂いがするが・・・」
「あぁ、おそらくこれらの箱の中身の匂いだろう。菓子だと言っていたから」
「ほう・・・菓子なんて、高級品だな」
リヴァイは一番手前にあった小さな箱を手に取ると、くるりと指先で回してみせた。
とそこで、部屋の扉を叩く音がした。この子どものような叩き方を聞けば、誰が来たのかはすぐに分かる。
「エルヴィン、いるかい?」
返事も待たずにバンッと扉を開けて入ってきたのは、やはりハンジであった。
「うっわ、何この部屋!すっごい甘い香り。もしかして、その山になっているものって、全部バレンタインのプレゼント?!」
入ってくるなり快活に話し始めたハンジの言葉に、リヴァイとエルヴィンは首を傾げる。
「バレンタイン?」
「何だそれは」
キョトンとした顔で見つめてくる二人に、ハンジはぷっと吹き出した。二人共、いつも兵士達の前で見せる厳しい顔とは打って変わって、子どものように無防備な表情だったからだ。
「あぁ、君たちは知らなかったのかい?今年、製菓会社達が結託して、自社製品の売上向上を狙ってあることを言い始めたんだ。2月14日は好きな人、普段お世話になっている人にチョコレートを贈りましょうってね。見え見えの宣伝なんだけど、やっぱり女の子たちにとっては良い口実になるみたいで、瞬く間に評判が広がって、今じゃ一大ブームになっているんだよ」
そう説明しながら、ハンジも懐から明るい色合いの小さな箱を取り出して見せた。
「ほら、私ももらっちゃった。でも、エルヴィンはすごい数だね。それだけ兵士達から慕われているってことだし、調査兵団は安泰だな!」
あははは、とハンジはいつもの調子で明るい笑い声を上げた。