第3章 君の匂い
人にはそれぞれ匂いがある。
それは強烈なものから微かなものまで様々だが、俺の鼻ならどんな匂いでも嗅ぎ分けられる。それが気になる相手のものならば、なおさらだ。
ミケ・ザカリアスは兵団内で最も嗅覚が優れている。いや兵団内どころか全人類の中でさえ、ここまで嗅覚が発達している人間は、もしかしたら彼をおいて他にはいないのかもしれない。何しろ匂いだけで巨人の位置や数まで知ることができるのだから。
そんな彼は、人の匂いを嗅ぐのが好きだ。もっと言えば、匂いで人を判断するようなところがある。醜悪な性質である人間からは、やはり醜悪な臭いのする場合が多い。一方、優れた人間からは不思議と良い香りがするものだ。例えば、
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ミケはスン、と鼻を鳴らした。
すぐそこをが歩いていく。カツカツと小気味良く石畳を鳴らしながら、真っ白に洗われた白衣をヒラヒラとドレスのように翻えしている。彼女からはいつも、よく干した洗濯物のような清潔で温かくて、安心する匂いがする。
(それと、リヴァイの匂いもな)
とリヴァイは一日の内かなりの時間を共有している。どちらかが拘束している訳ではない。ただ本当に自然に、気が付けば隣で笑っているような、そんな関係なのである。
自然、からはリヴァイの、リヴァイからはの匂いがしてくる。
(それがもどかしくもあり、そんな二人の姿を見ているのが俺にとっての癒しでもあるんだがな)
スンスンと、ミケは満足そうに鼻を鳴らした。