第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
「逢坂ちゃん、来たよ!」
『…………………』
放課後、研究室に王馬くんが現れた。
一緒に入ってきた左右田先輩が、ころっと騙されて連れてきてしまったのだろう。
「逢坂、お前に来客って珍しいな?約束してたんだって?」
『………してません………』
「え?マジかよ」
「はい、逢坂ちゃん!超高校級の総統が作ったものを食べれるなんて滅多にないんだから、味わって食べてよね」
彼はやたらと軽そうな鞄からクッキーの入った袋を取り出した。
『…………』
なんだか怪しげな赤い色をしたクッキーだ。
食べるのがはばかられるどころか、受け取ることすら身体が拒否している。
いや、間に合ってるんで、と断ろうとしたが、王馬くんが引き下がることはない。
「はい!どうぞー」
一枚のクッキーを口元に持ってこられ、とりあえず自分の手で受け取ろうと指先で摘んだのだが、彼が手を離してくれない。
仕方なく自分で食べるのを諦め、彼の手からクッキーを口にした。
『………あ、美味しい』
「何味だった?」
『………………うん?何味?』
製作者とは思えない感想の聞き方に違和感を覚える。
一枚じゃわからないや、と他のクッキーを食べようと王馬くんからクッキーの入った袋を受け取ると、「オレも小腹空いてんだよ、一枚くれ」と言って、左右田先輩がクッキーを一枚取った。
私がクッキーを再度口に入れようとする直前、ザクザクという音を立てて先にクッキーを食べていた左右田先輩が大きく跳びあがった。
「かっっっっっら!!!!!!!!」
『………え?』
「王馬テメェ、クッキーに何入れたんだよ!!」
「あーぁ、左右田ちゃんが先に食べちゃったかー。残念」
ジタバタと暴れて、冷蔵庫からコーラを引っ張り出してきた左右田先輩は、2リットルのペットボトルからそのままコーラをがぶ飲みした。
そのただ事ではない様子に、私はそっとクッキーを袋に戻した。
「辛ッすぎんだよ、なんだこのクッキー!!逢坂、お前なんで平然と食ってんだ!?」
『…え、私は特に辛くなかったんですけど』
「じゃあ逢坂ちゃんが食べたのはトマト味だね」
『……は?』