第10章 スーツ男
「私ども黒白人の集落では…」
スーツ男さんの声にハッとして、さまよっていた思考が目を覚ました。
聞きたくない言葉を聞かされて、飲み込みたくなくて、思わず現実逃避してしまった。
伊豆くんが帰るって、帰るって、どこに。
伊豆くんの家は、ここなのに…。
「私ども黒白人の集落では、みなが職と家とを持ち、不自由のない生活をしています。まあ半数は自給自足の農家のようなものですが。学校もあります、病院もあります、郵便も届きます。ほとんど人間社会と変わらない生活をしていますよ。付近に住む人間は黒白人と古くから交流があり、私どもが何であるかは全て承知しています。少数ですが、都会に出て暮らす黒白人も居ますし、そういった同胞の生活をサポートする、私のような職もあります。とにかく、五川省に行けば伊豆さんはまっとうな生活を送れると思います。私が保証します」
スーツ男さんはとうとうと言葉を並べ立てた。
なんだろうな、この人、何で「全部わかってます」みたいな顔して喋るんだろう。