第1章 母の自言辞を滅せよ
「だからアンタは『まるでダメなオッサン』なんて呼ばれんのよ! もっとしっかりしなさいよ!」
何の変哲も無いある昼下がり、かぶき町の万事屋で鳴り響いたのは女性の喝だった。今は不在の新八、神楽、そして定春が聞けば、間違いなく驚きで飛び上がるような音色だ。そんな声の主である碧は、襷で着物の袖をたくし上げながらハタキを手にした姿で、坂田銀時を怒りの剣幕で睨みつける。先ほどまでは銀時の怠慢に愚痴を零しながらもせっせと掃除をしたのだが、いちごオレを飲み干す銀時を目にした碧はついに堪忍袋の緒が切れた。溜まっていた鬱憤を一気に解放させるように悪口を言い、銀時にもっと自立するよう捲し立てる。
普段、碧は愚痴を零しても怒りは表さない。そんな彼女に怒鳴られれば、どんな人間であろうとも反省はするだろう。しかし、生憎と坂田銀時は素直に人の話を聞くような人物ではなく、碧の声はただの火種と化して更なる争いを生む。事務所のソファーに寝転びながら読んでいたジャンプを床に投げ捨て、銀時は傲慢な態度で座り直した。そして態度と一寸も変わらない傲慢な応対を繰り広げる。