第1章 母の自言辞を滅せよ
「銀時」
お登勢は最後に一度、彼に待ったをかける。
「んだよ」
「今回はその懐の指輪に免じて見逃すよ。けど、今度その娘を泣かせたらタダじゃおかないからね」
「肝に銘じらァ」
「それと、さっさと真面目に仕事でもしな。それが出来ないならせめて碧の手伝いでもするこったよ」
「口の減らねーババアだな。いい加減に黙って……」
また銀時の得意な悪態が零れ始めるが、その言葉は不自然に途切れた。いきなり口を閉ざす銀時にお登勢は問う。
「どうかしたのかい?」
「……いや、やっぱ今のナシで。説教はかーちゃんの役目だからよォ、ババアに言わせておこうと思ってな」
「どうしたんだい急に」
「別に。ただコイツに説教されるよりは、ババアに言われる方が気が楽なんだよ」
「ふん、さすがに懲りたようだね」
「うるせぇよ」
どこか満足そうな音色を持った二人の会話は、銀時が去るのと同時に終わった。お登勢は人騒がせな馬鹿息子と馬鹿娘を見送り、店仕舞いの作業へと戻る。