第12章 お帰り
結果として、菜生は戻って来た。
組合との取引は太宰が担当したので、何があったのか、何故フランシスが菜生を手放す気になれたのかは当事者にしか判らない。
然し、戻って来たのだ。
安堵の空気と共に、この社に菜生は帰ってきた。
最初は気まずそうに目を逸らしていたが、太宰に強く抱きしめられ、堰が切れたようだった。
「治っ…ごめんなさい…っ」
「あんまり、心配させないでくれ…この1ヶ月間、気が気じゃなかった…」
恋仲でないのが不自然な位、2人は互いを強く抱き締める。太宰の腕は遠目で分かるくらい震えているし、菜生は涙声だ。
何も云わずに消えた菜生には、云いたいことが沢山あったが、敦たちは2人をそっとしておくことにする。
与謝野の合図で社員たちは皆出払い、彼等2人だけの幸せな時間を、と陰ながら見守ることにしたようであった。