第8章 犠牲精神
現在──フランシスside
70億もの額を掛けていたにも関わらず、ストレイドッグ──中島敦から手を引いたのもそのためだ。
「嬉しいよ、ナナセ」
微笑み、隣に座る菜生の髪を優しく撫でた。
菜生もにこりと笑う。
しかし、──口にした内容は表情とは程遠いものだったのだが。
「軽々しく私に触れないで。別に、フィッツが恋しくて戻ってきた訳じゃないから。勘違いしないでね」
フランシスはそれを華麗に無視し、──菜生の唇に軽く口付けた。
「戻ってきてくれて嬉しいよ」
「私の話、理解する気ある?好きじゃないって云ってるんだけど…あの頃についてなら、感謝してるけど」
「あぁ…君と出逢った頃のことか。懐かしいな」
フランシスは口元に笑みを浮かべたまま、懐かしむように目を細めた。