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解読不能ーanotherー

第3章 3 そして平常の音色を


ミーンミーンミーンミーン
ミーンミーンミーン

ああ、暑い熱い暑い

今の状況を表す言葉は、それしか浮かんではこなかった。
と言うか頭を使うこともしたくない。

頭上に広がる真っ青な虚空に、照りつける太陽を遮るものなど、まさしく皆無であるし、
大量に流れる汗を止める術は、早々に家に帰りエアコンをガンガンかけるくらいしかないのだから。

長い坂の上で自転車を押しながら、僕はそんなことを思案する。

ガシャン

ああもうだめだ。このまま地面に倒れて転がってしまいたい。

暑さに思考をやられかけたその瞬間
不意に後方から衝撃が走る。

「うはっ」

自分でも驚くくらいの間の抜けな声が出る。

「っひゃははっ
うはっだってっうっけるー」

後ろから聞こえてきた声は、この暑さには不似合いな程の元気な声だった。

「……はぁぁぁ。」

僕は大きなため息をつき、腹を抱えて笑っている青年を見つめた。

青年の名前は雪桃 恋滋。
名前の読みはレンジ。
……所謂DQNネームと言われる物。
名前も変わっているが、外見も
それなりに変わっている。
肩にかかった濃い桃色の無造作に跳ねた髪。
頭に生えた取って付けたようなアホ毛。
そして能天気さが滲み溢れるこのバカ笑い。
今では、見ていると和んでしまうくらいになってしまった。

『恋滋……やめてよ…』

「いゃあ…あっははは
すげぇ暑くて死にそうなになってる奴がいてさぁ、
俺の元気を分けてやろうと思ったらさ、
ユーマ君だったのさ」

グッと親指を立て、恋滋が笑顔で僕を見る。

『僕以外にやったら警察に捕まるよまあむしろ捕まって欲しいけど』

「え?え?
俺ってそんなに迷惑ですか」

『S級ランク犯罪者並みに。』

僕がドスの効いた声でボソリと呟くと、恋滋は少しムッとして

「いやいやいやいやそこまでは無いだろ
俺犯罪者ちゃいますし」

と、言い放つ。

『もう馴れたけどね』

「さっすがユーマ君
俺の古き良き親友なだけあるね!」

『古き良きって…それ街とかにいうんじゃないの……?』

「ふっふっふー
細かいことは気にしないんだよユーマ!
早く行こーぜ!」

坂の上でクルクルと回りながら僕に満面の笑みを向ける青年に苦笑しつつ、僕は茹だるように熱い自転車に手を掛けた。


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