第7章 Fate…
それからしばらくの間、茂子さんの店のキッチンで働きながら、じっとほとぼりが冷めるのを待った。
とは言っても、アイツらが茂子さんの店へ俺を尋ねて来ることは、一度もなかったけど。
あれから何日も経ってるし、何と言っても茂子さんの店は街の中心地、繁華街からは遠く離れた所にひっそりと佇んでいる。
そんな場所に、しかもゲイバーがあるなんて、地元の人でも知らない人が多いくらいだ。
当然アイツらが簡単に俺の居所を突き止める、なんてこと出来やしなかった。
諦めたんだ…
そう思った。
勿論、逃げてばかりいたってどうにもならないことは、こんな馬鹿な俺でも分かっていた。
でもまたアイツらに見つかれば、また好きでもない相手に身体をいいようにされる、あの生き地獄のような世界に逆戻りすることになる、そう思ったら怖くて…
だから俺は、どこにいても常に息を潜め、人目を避けるようにして日々を送っていた。
そうしていれば、いつかアイツらだって俺の存在なんて忘れるだろう、って…
自分のことしか考えてない、甘くて、狡い考え…
大体六百万もの大金を、アイツらがそう簡単に諦めるなんて、あるわけないのに…
金儲けの為だったら、手段を選ばない奴らだって、十分過ぎる程分かっていたのに…
どうして気付かなかったんだろう…
まさか俺の知らない所で、大事な人達が傷付こうとしていることを…
大切な人が、人知れず涙を流していることを…
愛する人の肩を抱くことも出来ず、一人苦悩していることを…
どうして俺は気付かなかったんだろう…
もっと早くに気付いていれ、誰も悲しまず、苦しめることも無かったのに…
…って、もう遅いんだけどね?
俺は智を傷付けてしまったから…
大切な友達を泣かせてしまったから…