第27章 All for you…
それから先のことは…、ドラッグで相当イカれてたんだろうな…、殆どと言っていい程、記憶がない。
雅紀の話によれば、俺が翔のスマホを使って雅紀に助けを求めたらしいが、それだって俺自身は身に覚えのない事で…
次に気付いた時には、俺はもう病院のベッドの上で、それはもう酷い禁断症状に苦しめられることになった。
翔がどうなったのか…、それを考える暇もない程、来る日も来る日も、まるで底の見えない渇望と、襲いかかるフラッシュバックにのたうちまわり…
もう死んでしまおう…
もし自分で死ぬことが許されないのなら、誰か俺を殺してくれ…
ドラッグへの渇望と離脱の狭間で、そう何度も願った。
俺はその時になって、薬物依存の本当の恐怖を知ったのかもしれない。
そんな日々が続き、近藤が俺に薬物依存からの更生を目的とするダルクへの入所を薦めて来た。
勿論、俺にそれを断る権利はないし、何より何年かぶりに会った両親を、これ以上悲しませるわけにはいかないと思ったから…
だって…、いつも勝気な母ちゃんに、あんな風に泣かれちゃったら…さ…、俺の想いなんてどうでも良くなった。
ただ、翔のことだけは、雅紀の口から“死んだ”と聞かされた後でも、どうしても信じることが出来ず、俺の胸に楔となって深く突き刺さり、長いこと抜けることはなくて…
薬物中毒患者専門の病院からダルクへと移送されてからの俺は、ただ息をしているだけの…、例えるなら生きた屍状態だった。
そんな時だった、紫耀に出会ったのは…
ダルクに入所した当初は、そこの連中と連むつもりなんて、これぽっちもなかった…と言うよりは、誰かと関わることが怖くて、自分から人との関わりを避けていた。
でもその男…紫耀だけは、どうしてだか気になった。
見た目も、性格だって、俺の知ってる翔とは全然違うのに…
多分、名前が翔と同じだったから…、なんだろうな…
そんな単純な理由で、徐々にではあるけど、俺は紫耀にだけは心を開くようになっていた。
紫耀は、見た目こそ俺の知る限り、一二を争う程良いのに、頭の方はてんで弱くて…
まさに“ド天然”って言葉がしっくりくるような…、そんな奴だったったけど、紫耀といるととても楽しかったし、ありのままの自分でいられるような気がしていた。
そんな感覚は、もしかしたら初めてのことだったのかもしれない。