第25章 End of Sorrow…
“チワワ”のことを余程気に入ったのか、連れて帰りたいと言い出す雅紀の腕から“チワワ”を奪い返し、
「飼い主は俺じゃねぇから…」
と、一言言いおいてから、俺は雅紀の背中を見送った。
ったく、油断も隙もない奴だ…
でも、久しぶりに雅紀とゆっくり話が出来たこと、そしてずっと考えていた劇場の今後を打ち明けられたことで、長いこと胸の奥にあったつかえが取れたような、そんな気がしていた。
「さてと…、飯にすっか…」
俺は足元でじゃれつく“チワワ”を片手で抱き上げた。
クリッとした目が、小首を傾げて俺を見上げる。
なんかお前…
「俺に似てね?」
まさかな…、そんな筈ねぇか…
自嘲気味に笑って、俺は冷蔵庫を開けた。
「マジかよ…」
アルコールと、用途の分からない調味料しか残っていない冷蔵庫を前に、俺は肩を落とした。
それもそうか…
近藤に世話になると決めた時、大抵の物は処分したんだっけ…
仕方ない…
「おい、買い物行って来るから、大人しくしてんだぞ?」
俺は“チワワ”を、近藤の家から持ち帰ったケージに入れると、スウェットの上にダウンを羽織った。
すると、突然火がついたように“チワワ”が甲高い声で鳴き出した。
「なんだよ、急に…。静かにしろって…」
一向に鳴き止む気配のない“チワワ”を再び抱き上げ、目と目を合わせてやる。
犬には、人間の感情や環境の変化を読み取る能力があると聞いたことがある。
だとしたら…
もし“チワワ”が智に“捨てられた”と感じていたのなら…
「なんだお前…、俺に捨てられると思ってんのか? 馬鹿だな…捨てやしねぇよ。すぐ帰って来るから待ってろ」
“チワワ”の頭を撫で、ケージに戻してやる。
犬な人間の言葉が通じるなんて信じちゃいないが、明らかに安心した様子の“チワワ”にホッと胸を撫で下ろした俺は、クリッとした目に見送られ部屋を飛び出した。
近所のコンビニに駆け込み、目に付いた弁当と一緒に、“チワワ”のためのミルクを買い、急いでマンションに帰る…
“チワワ”か俺を待っている…
そう思うと、それが例え小さな犬だったとしても、俺の足取りは自然と軽くなった。