第23章 Moving on…
その知らせは本当に突然で…
そう、まるで、
「翔ちゃん、翔ちゃん、翔ちゃん!」
新聞片手に、嵐のように支配人室に飛び込んで来たコイツのように突然だった。
「うっせーなぁ…。つか、ノックしろっていつも言ってんだろうが…」
ソファーで眠ってしまったせいか、軋む身体を起こし、寝癖のついた頭をガシガシと掻く。
智がいなくなってから数ヶ月…、殆ど数えるくらいしか自宅マンションには帰っていない。
今ではすっかりヤニ臭い支配人室が俺の住居と化している。
にも関わらず、遠慮の欠片もなく飛び込んで来た雅紀は、テーブルの上に山積みになった空き缶と灰皿を掻き分け、そこに新聞を開いた。
「コレ見てよ」
「だから、なんだよ…」
「いいから、見てってば。大変なんだから」
大抵、雅紀の言う“大変“は、俺にとっては“大したことない”ことの方が常で…、この時も当然のようにそう思い込んでいた。
ところが、だ。
大欠伸を噛み殺し、何気に紙面に視線を向けた瞬間、俺は我が目を疑った。
「…っだよ、これ…」
そこには、松本が経営していたショーパブが、違法な売春斡旋を理由に逮捕されたこと、そして更に驚いたことに、松本の店に関わった客が、違法薬物所持の疑いで逮捕されたことが、決して大きくはないが見出しに記されていて…
咄嗟に新聞を掴んだ手が震えた。
「ね、ビックリでしょ?」
「いや…、ビックリどころか…」
俺は新聞の細かな文字を目で追った。
「嘘だろ…」
売春斡旋をしていることは、貴族探偵の調査報告書にも記載されていたことだし、そこに智が関わっていたことも確認済みだ。
だから、松本かま売春斡旋法違反で逮捕されたしても、頷ける。
でもまさか薬物が絡んでいたとは…
「お、おい…、まさかこの件に智は…」
そんな筈はない…、俺の思い過ごしだ。
そう思いたいのに、どうしてだろう…、この胸に押し寄せては引いていく不安の波が、どうしても拭いきれない。
「それは…分かんないけどさ、この“上島”って人、貴族探偵が寄越した報告書にも名前があった人だよね?」
だから、か…、この名前に見覚えがあったのは…
「雅紀、貴族探偵に連絡とれるか?」
俺は新聞をクシャリと丸めると、テレビのリモコンを手に取った。