第8章 天才の愛情
「んっ…………うぅ」
オレは製本を放り出して、男子トイレの個室でしごいていた。
桃浜によって滾らされた熱は、放出しないことにはどうにも治まらなかった。
「ハァ…桃浜…」
さっきの熱い行為を脳に浮かべ、こすり続ける。
桃浜の柔らかな体を、快感に震える声を、思い出そうとした。
――ダメダヨ。ダッテ私、伊豆クンノコト嫌イダモノ
「うっ、あ、あぁああ…………!」
意地悪く笑う桃浜の顔と言葉が脳をかすめた時、オレは達してしまった。
「ッハァ、ハァ……はぁ」
トイレットペーパーを引き出すと、カラカラいう音がトイレにむなしく響いた。
何してるんだオレ。
思わずそんな気持ちにもなる。
「伊豆くんに勝った気がする」と桃浜は言った。
オレは負けたのか?
なんだか酷くみじめな気分だ。桃浜はオレと勝ち負けを競っている時、ずっとこんな気持ちだったのだろうか。
オレは桃浜を、ずっと傷つけていたのだろうか。
「…クソッ」
トイレの壁を拳で殴る。タイル張りの壁は固くて、音などろくに立てやしない。指が痛い気がしたがどうでもよかった。
オレは眉間にシワを寄せながら衣服を直し、トイレから出た。