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【YOI】銀盤の王と漆黒の王子【男主&勇ヴィク】

第3章 銀盤の王と漆黒の王子


「何故だい?」
「デコや西洋人なら、愛する人に真っすぐ向かっていくのはごく当たり前の表現やねんけど、日本の舞では、そこを敢えて周囲を窺うようにしながら少しずつ寄り添っていくねん」
リンクの外で振りを加えながら、純は説明をする。
「回りくどいけど、ある意味空気読んで和を重んじる日本ならではの表現や。ここの振りは僕も関わったから、口出しさせてくれるか?」
「…やっぱり、お前に頼んで正解だったよ。お前は俺にも、そして勇利にもないものを持っている」
「え?」
目を見開く純にヴィクトルは近付くと、リンクの縁に上半身を預けるような体勢になった。
「いつだったかお前が『自分は絶対勇利には敵わない』って、酒の席で零してた事あったけど、勇利は勇利で俺にお前について愚痴ってたんだよ?」
「勇利が?何で僕に?」

「…よく純は、僕の事を羨ましいとか言ってるけど、そっくりそのまま返すよ」
勇利のEX作りの為にオフシーズンにロシアを訪れていた純が帰国して間もない頃、ヴィクトルは珍しく自分の前で少々酔った勇利の口から、かつての同期に関する愚痴を耳にした。
既に仲直り済だが、純の滞在中にEXの振付を巡って彼と喧嘩をしていた勇利は、密かに自己嫌悪に陥っていたのだ。
「純は、僕なんかとは比べ物にならない京都のお坊ちゃんで、僕じゃ到底入れそうにない大学を院まで出たくらい優秀でさ。現役の頃も、1つの事を聞いたら即座に理解して、それを2どころか5にも10にも出来た。対して僕は、ただ1つの事を愚直に繰り返すだけ…」
純にしてみれば、自分には絶対に出来ない「ゼロから形あるものを構築できる」勇利は昔から羨望と嫉妬の対象なのだが、勇利は全く逆の事を考えていたのである。
「おまけに面倒見も良くて優しいし、これで純にスケートでも勝てなかったら、僕もう立つ瀬がないよ!ただでさえ柔軟性やスピンとか負けてるなって、思う部分もあるのにさ…」
「ホント『お前達』は、お互いないものねだりをしてる似た者同士だよね。だからこそ今、良い関係を築いてるというか…」
そんな勇利の姿を、かつて酔い混じりに同じような愚痴を零していた純に重ねると、ヴィクトルは苦笑しながら率直な感想を述べたのだった。
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