第2章 ‐case1‐ending.
電話口から聞こえる声は、少しだけ低くて。
『逃げるのはナシって、言っただろ?電話くらい出ろよ。
小熊、警戒心薄いから、誰かに誘拐されたかと思ったんだぜ?』
言われている言葉も、怒られているのが分かっているのに。
あんな事をした私に、まだ連絡をくれる事が。
まだ心配をしてくれる事が。
とても、嬉しくて。
私に必要なものは、いつでも傍に居てくれる存在より。
私を想ってくれる、この声なのだと強く思った。
ただ、この想いを電話で伝えるのは嫌だ。
逃げずに、この人の眼を見て、ちゃんと伝えたい。
「黒尾さん、ごめんなさい。逃げたのは、悪かったと思ってます。」
先に言うのは、謝罪。
悪い事をした自覚があるなら、まず謝れって言う親みたいな所があるのが、黒尾さんだから。
お断りの返事だと勘違いされないように、何について謝っているかも加える。
そして、ここからが、私にとって勇気のいる作業。
今まで、心地好い内側の世界に閉じ籠って、京ちゃんに護られてきた私。
外の世界を見るのは、少しだけ怖いけど。
「お詫びに、今度は2人でどこか行きませんか?」
一歩、踏み出す。
護られてばかりの自分を捨てて、新しい世界への扉に手を掛けた瞬間だった。