第10章 亀裂
家に帰ると、いつも通り爺やが出迎えてくれて何から何まで世話をしてくれた。自分の事をしているとあっという間に時は過ぎていき、夜の九時を回っていた。
いつもなら自主練か授業の復習をしている所だが、今はそれらよりも優先すべき事が私にはあった。
『(多分だけど…百はずっと私を避けてる)』
雄英高校に入学してすぐ百は私と都合を合わせなくなった。学校では一緒に時間を過ごしているが、帰り道や家の中ではさっぱりだ。
それに百は放課後、どこかに寄り道をしてから帰るようになった。今までの生活の中では非常に有り得ない出来事だ。
『百は私に何かを隠してる』
心の声を聞けば隠し事はすぐに分かるのだけど、百に対してそんな汚い手は使いたくない。
百と話し合おう。もしかしたら、何か一人で抱え込んでいるのかもしれない。そんな時こそ1番身近にいる私の出番ではないのか。
そうこう考えている内に百の部屋の前に着いた。
私は深呼吸をして、心を落ち着かせる。大丈夫、小さい時に喧嘩したり問題があった時だって、二人で話し合いをして仲直りしたり、解決してきたではないか。
『……』
(コンコン)
「はっはい!」
『…百、私』
「暁お姉様!?…す、少し待って下さい」
百は驚いたように声を上げた。部屋を片付けているのか、物音が聞こえる。
…私に見られてはまずいものなのだろうか。
(ガチャッ)
「お姉様、お待たせしました。さあ、どうぞ」
『お邪魔しまーす』
なるべく気にしてないように振る舞いながら部屋へ入る。部屋の中はいつも通りの百の部屋で、特に怪しいものは無いように見られる。
「お姉様から訪ねてこられるなんて珍しいですね。何か御用でしょうか?」
百も何でもないように振る舞っているが、百の心臓の音がいつも通りではない事を教えてくれる。
ここは単刀直入に言おう。変に言い回してもはぐらかされるのが落ちだ。
『…百。私に、何か隠してる事があるんじゃない?』
「!…えっと…」
図星だったらしく、百は両手を後ろに回して俯いてしまった。
『別に隠し事をしている事を責めているわけではないの。ただ、もし困っていたり悩んでいる事があるのなら、私に言ってほしいなって思って』
「……お、お姉様…」
百は私の目をじっと見つめる。私を見ているその目からは悪意なんて微塵も感じなかった。