第1章 出逢い
そんな町を抜け、私は歌鈴に戻る
紫色の暖簾を潜って中にいた人に声を掛ける
『ただいま』
「あぁ、おかえりなさい」
女将さんが少し微笑んで返事をしてくれる
歌鈴というのは着物や簪など、色々な装飾品を売っている店だ
そして私はそこで働いていて、ついさっきまで休憩で外に出ていた
「あ、そうそう紫苑ちゃん」
女将さんは品出ししていた手を止めて私に歩み寄る
「ここ最近は浪士達が暴れているみたいだし…貴方も気をつけなきゃ駄目よ?」
心配しているように私を見つめる
『大丈夫大丈夫!護身術くらい出来るし、気をつけるから!安心してっ!』
私はそう言って、ぐっと拳を握る
笑う私を見て女将さんは安心したようにまた微笑んだ
…どうせこれも嘘だ
全部全部、嘘しかないんだ
実際は大丈夫じゃないから
私は女将さんには見えないように、傷だらけの身体を一度だけ
ぎゅっと抱きしめた