第7章 【桜色】UA チームカンファレンス
~Sideハイリ~
驚いた……
ドアを開けたら目の前に轟くんが居るんだもん。
そりゃ驚くさ
今一番、会いたかった人だったから。
ひとしきり撫でて貰った後
開いたばかりのドアはすぐに閉められ
出るはずだった廊下がそれに遮られた。
次は何事かと首を傾げると
頭に乗っていた手がおもむろに
シャツのボタンへと掛けられる。
「ボタン開け過ぎだ。タイ出せ。
結んでやるから。」
そう言いながらボタンを閉めてくれている…
(そうだ、この人世話焼きだったんだ。)
おずおずとネクタイを差し出しながらの胸の内は
僅かに波立っていた。
ここは学校で保健室。
すぐ後ろにはリカバリーガールだっているし
誰も居なくたって十分に恥ずかしい。
君は私のお母さんか!
普段の私なら恥ずかしくてそれを隠すかのように
突っ込むんだろうけど…今、何故かホッとしている。
轟くんに対して初めての感情だった。
「ちょっと近いよ…。」
「近づかねぇと結べねぇだろ。」
「そりゃそうだ。」
「小せぇ」と文句を言いながら近づいた彼との距離を
本当は近いだなんて思ってない。
私たちの間には人ひとり分の間もないと言うのに
この僅かに開いた距離がもどかしい。
そうは思っても
朝、距離を置きたいと言った手前
なんと言って、どうねだれば良いのかわからない。
ここ二日、轟くんによってかき乱され続けてきた心は
ほんの些細な距離も遠く感じるほどに
彼を求めるようになってしまったようだ…。
「じゃあ行くか?」
「そだね。」
締められたネクタイの結び目を指で撫で
リカバリーガールにお礼を言って保健室を出る。
さり気なく繋がれた大きな手は温かくて
触れている部分があるというだけで安心できた。
人目に付く場所に至ってもまだその手が離れないのは
握られた力に関係なく
私が…離したくないからなのだろう。