第48章 【深緑色】症状(中期)
そもそも
こんなぽっと出てきたばかりの女が
コイツ等の仲を裂けるとは到底思えねぇ。
俺だって気に食わねぇがこの二人
普通の恋人同士とは少し違ぇ…。
そこらに居る奴らとはまた違う
信頼関係みてぇなモンがある。
「………ぁ。」
「……オマエな…。」
一言だけ漏らしてガタリと立つ女
一つ息をつきながらやれやれと立つ男
なんでこんだけで意思疎通できんのか…。
言葉足らずの会話は
長年連れ添った夫婦さえ連想させやがる。
慌てて席を立ったハイリに苦笑を零した轟は
「わりィ」とだけ残して揺れる亜麻色を追い食堂を出ていった。
こんなんは、日常茶飯事だ。
それどころか日を追うごとに増していきやがる。
いくら新キャラでもこんだけ張り付いてりゃ
嫌でもわかんだろうが…
この二人の中を引き裂くことなんざ……
(そう簡単に出来やしねェよ…。)
胸の内で毒吐いて舌打った。
そりゃブーメランってヤツだろと
自分で思ったからだ。
――ハッ
吐き捨てようとした溜め息は
俺より先に隣で落ちた。
椅子取りゲームかのようなこの場所で
目の前にゃ空席二つ。
違和感と無駄しかねぇのこの状況で
遠慮なく出てきた自己主張の強いソレに
チラと目線だけ投げる
女の目は
二人の立ち去った方向を見据えたまま
「ねぇ…あの二人っていつもああなワケぇ?」
酷くつまらなそうに
シラけたとでも言いたげに
両手でついた頬杖に顎を乗せ、鼻で笑う。
理解しがたい、と付け足して。
俺が言うのもなんだが
どう見たって「いい人」のツラじゃねェ…。
言っちゃァなんだが
典型的な裏表アリの腹黒…
(……ですらねぇ、か。)
二重人格な腹黒女に蔑称を変えようかとも思ったが
俺から見りゃコイツは常に黒いまんま。
腹黒どころじゃねぇ
真っ黒だ。
そりゃま、
周りにゃ白くしか見えてねぇんだろうが…。