第45章 【深緑色】オープン・クエスチョン
遮るには小さく短い手だった。
本当にヒーローなのだろうか?
自分の腰の高さほどしかない背丈にグレーの短髪
プロヒーロー グラントリノの手。
自分を止めるかのように上げられた手に
轟はさして脅威を感じなかった
止める力などこの手には無い
それ程の怒り
緊迫した空気と
冷冷酷酷とした空気
一触即発すらないだろう
ここにあるのは火と油じゃない
水と油だ
しかし
決して相容れない境界線でも引かれているかのような現状が
この老爺の一言で変わった。
「まァ…
話は最後まで聞け。」
見ればそっぽを向いていた犬面は
コホンと咳ばらいをし
その口元に5本指を添えている
チラリと向けられた黒目
その横顔はどう見たって犬なのに
どこか悪戯だ。
まるで…
これから内緒話でもするかの様に
「以上が――…警察としての意見…」
それがまるでじゃないから面白い
言葉はまさに内緒話だった。
「…で
処分云々はあくまで“公表すれば”の話だワン。」
公表すれば処罰は免れない
だがしかし公表さえしなければ
この事実は握り潰す事が可能だと。
少年たちの功績をエンデヴァーの物として
擁立さえしてしまえば…と。
「どっちがいい!?」
大手を広げ
問いは投げられた。
賞賛を得て処罰を受けるか
握り潰して功績を捨てるか
「一人の人間としては…
前途ある若者たちの“偉大なる過ち”に
“ケチ”を付けさせたくないんだワン!?」
さっきまでの冷たい雰囲気はどうしたと
問いたくなる程の悪戯な笑み。
これでは今の今まで
まるで担がれていたかのよう…
それが大人
これが社会
正論だけでは生きていけない
正論は必ずしも正解とは限らない
そんな大人たちに今
自分たちは守られている
エンデヴァーがここに居ないのが
その証拠だ。
「よろしく…お願いします。」
三つの頭は下げられた
こんな言葉をかけられては
青臭い怒りなど
ぶつけられる筈がない。
和らげられた声に
角の立った空気が凪いでいく…
「“大人のズル”で
君たちが受けていたであろう賞賛の声は無くなってしまうが……」
せめて
共に平和を守る人間として
ありがとう―――と。
苦い笑みを交わし合う緑谷と飯田の間で
怒りのやり場を無くした轟だけが
苦虫を噛み潰していた。