第42章 【深緑色】医療保険~指定難病恋型~
これぞPlus Ultraだ。
「おっはよーぉ!」
待ち受けていた受難は
急な坂でも長い坂でもなく
長い黒髪を靡かせた女の子。
片手を高く上げて
大きく振っている。
間違えようがないよ
昨日髪まで結って貰ったんだから。
「見過ごしちゃったのかと思ったよぉ。」
「お、おはよ…。」
声は
少しだけ上ずった。
不意打ち過ぎて
驚いて
ずっとここに居たのだろうか
街路樹から背を離し笑顔を向ける。
ほんと、人懐こい笑顔。
眉を下げ
頬を上げ
タタタ、と私達の方へ駆け下りてくるその姿。
一片の曇りもない笑顔が眩しかった。
可愛いと思った、綺麗だと思った。
「どうしたの?」
尋ねてみたけど
聞くまでもない
待ち伏せていたのだろう。
彼を
焦凍を
繋いでいた手を放して自分の胸に添えてみた
――トク、トク、トク
気持ちに波はなかったの
春の小川の清流のように
静かで、穏やかな音だった。
『邪魔だろうから先に行ってるね』なんて
そんな皮肉、もう言わない。
彼女も焦凍を好きで
『彼女が居ても諦められない』
そう思ってるなら受けて立つ
それくらいの気持ちはあった。
宣戦布告かと、思ったんだ。
「自己紹介まだだったよね?
私、栗井 ミミ!
普通科1年E組 出席番号9番!」
まさかこんな事
言われるとは思ってなかった。
「どうしても言いたくて
ここでずっと待ってたの!」
その言葉はまるで
愛の告白の様だった。
「楠梨 ハイリさん
私のお友達になってくださいっ!」
ドクリ、胸に波がたった
一瞬意味が解らなくて
何度も言葉をなぞった。
初めてだったの
真正面から『友達になろう』って言われたの。
ジワジワと上がっていく熱が
首を伝って顔を覆ってく…。
(こういう時、なんて言えばいいんだろ……。)
惑う視線はすぐお隣へ
見れば
得意気な顔をした焦凍が
やっと一仕事終えた
そんな顔で口端を上げていた。
「な? すぐわかっただろ?」