第33章 【空色】バイタルチェック
人気のない廊下じゃ
さして大きくない声もよく響く
ハイリと違って遮るものがねぇ俺の声は
決して広くねぇ廊下を数回バウンドして消えた
「どうした?」
「素直で居る事!
意地を張らない事!」
対してハイリのくぐもった声
未だ照れくさいんだろう
胸に顔を押し付けたままのそれは
大きさはあっても聞き取りづれぇ
堪えきれず、笑みが漏れた
頭を撫で
無理矢理上向かせた顔は
まだうっすら紅い
それでも一度絡んだ視線は
もう逃げやしなかった
「あと、必要になったら呼ぶことっ!」
必死に伝えようとしてんのが
痛ぇほど身に染みる
俺の意固地をなんとか解こうとする姿がいじらしい。
頬に手を添えて落としたキスは
詫びじゃなく誓約だ
「わかった、約束する。」
ハイリの必死の妥協案
素直にってことはつまり
親父への嫌悪も正直に出して良いって事だろ?
そんなつもりはねぇのかもしれねぇ
言葉の裏を掻く様で申し訳ねぇが
それでハイリが安心してくれんなら
いくらでも約束してやる。
館内にも響き渡る実況が告げるのは
1回戦で引き分けだった
切島とB組の鉄哲の対戦だ
これが終わったら
対緑谷戦。
フツリと消えた笑みを再び貼り付ける俺は
やはりエゴの固まりなんだろうか
「じゃぁな。」
「うん!」
上げた右手にパンと軽い音を立てて
華奢な手が合わさった
安心したような笑顔が
あまりに無邪気で胸がジクと痛む
同時にホッとした
こんな卑怯な胸の内を
見透かされなかった事に。
憎悪と恐怖に塗れたの俺の頭じゃ
ハイリの処方の本当の意味なんざ
皆目見当もつかなかったからな。