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【ヒロアカ】UAシンドローム【轟焦凍R18】

第33章 【空色】バイタルチェック




ピクリ
動くのは小さな蛹だ

10年眠りについていた命に大きな鼓動が宿る

トクン、トクンと音を増し
もぞもぞと動き出す

殻から出した瞳は願いという名の光を宿していた。

一歩一歩這い出でる、また頼りない細い足
支柱に縋って上へ上へ

頂点へ辿り着いたなら
飛び立つ先は、そう

光の方へ……

















「お父さん、私…ヒーロー科に編入する事に決めたよ。」



見上げれば一面の氷

その天井は厚く初夏の日差しも半分に
ぽたぽたと滴る雫が光を受けて淡く光る

何処かファンタスティックな光景を見つめる中で

ハイリは初めてそれを宣言した




ここ二週間の少女の行動から
ほぼ確定だろうと幾人もの教師がそう結論付けていた

打ち明けられた恋人も
答えは聞かずともそのつもりなのだろうと理解していた

だが誰一人、明確な言葉を耳にした者などいなかった




宣言を
何処かで踏みとどまっていたのかもしれない

まだ戻れるようにと
迷いが残っていたのかもしれない

だけど
その光景が少女に宣言させた



「ちゃんと支えることが出来る存在に、なりたいの。」



目鼻立ちだけじゃない
亜麻色の髪もそのウェーブも
そこに射す影すらも

そっくりと写し取ったようだ

言葉と共に振り向いた愛娘に
亡き妻が重なっていく





「やはり君は、お母さんの娘だよ。」




そっくりだ
本当にそっくりだと目を細めた父に
娘は素直に頷いた。





「うん、行ってくる!」





答えもきかぬまま駆けだす足
向かうはA組スタンド

この先に
クラスメイトが居る

半分だけじゃない
本当のクラスメイトが――……

例え淡くともその光に向かって駆け上がる

羽化したばかりの蝶は
折りたたまれた翅をそっと開いていく

その背を見送った父の目には確かに
大きく広げられた亜麻色の羽が見えた。


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