第5章 【桜色】桃色診断書
~Sideハイリ~
拝啓 お母さん様
私、好きな人が出来ました。
名前は轟焦凍くん。
なんと雄英ヒーロー科なんだよ?
お母さんの後輩だね。
頭は良いし紳士だし、カッコイイし
加えて強個性! 完璧でしょ?
ただちょっとね
いや、結構不思議な人なんだよねー……。
出す宛てのない母への手紙をしたためながら
私は昨日の夜の事を思い出していた。
――――――………
『しばらく帰らない…って
そんなこと言って家を出たら、まるで家出じゃない!』
『だから今理由を姉さんに送った。』
昨日の夕食中、ウチに泊まると言い張る彼に経緯を尋ねた私は、サラダにかけるドレッシングを手にしたまま絶叫してしまった。
差し出されたスマホの画面には
【彼女がストーカーに合ってるから暫く泊まる。】
読んだ瞬間むせ返ったのは言うまでもない。
正面に座る彼が安定の無表情なのも、言うまでもない…。
ただ、平然としつつも目はキョロキョロと卓上を動いていたので、ドレッシングを差し出しながら
自分でもわかる程、覇気の無い笑みを返した。
『ん?』
『ドレッシング、探してたんじゃないの?』
『ああ、わりぃ。』
不思議そうにこちらを見る姿にまで胸を高鳴らせる私は
もう重傷なんだろう。
見た事無い表情を見る度に熱発してしまいそうだった。
『どうかしたのか?』
ちょっと見つめ過ぎたのかもしれない。
ハタと目が合って慌ててスマホの画面に視線を落とす。
こちらはこちらで感想を述べにくいのだけど…
『にしたって…話、随分と盛ったねぇ…。』
『変わんねぇだろ?
あんなんが近くに居て安心しろって方が無理だ。』
サラリと返された言葉に思わず心の中で突っ込みを入れる。
(いや、そっちじゃない!)
表情に出さなかった分
手に感情が入ってしまったのか
ザクッと音をたてて刺されたプチトマトは
見事にフォークに貫かれていた。