第31章 【空色】タヒる…
~Sideハイリ~
伸ばす腕
急降下する身体
構える氷の剣
伸びる影
劈く声
秒は確かに皆に等しく刻まれたんだ
だけどこの戦いに
等しい順位なんてあるはずがない
『TIME UP!
騎馬戦、終了!!!』
轟チーム
緑谷チーム
爆豪チーム
3人の騎手は
白熱中の突然の停止ボタンに
電池の切れた人形の如く身を固めた。
それはスタンド席もさして変わりなく
「なんか…イイトコで…。」
「うん、ここからって感じだったのにね。」
「ハイリ…?」
まるで聞き入っていた演奏が
サビに入る直前にぷつり途切れてしまったかのような
虚無感が漂う
だけど私は
もうそれ所じゃなくて
一位であるにもかかわらず
苦痛に顔を歪める彼の表情が目に焼き付いて
「私、用事が出来た…ちょっと行ってくる。」
「「「え!?ちょっと!!!」」」
戸惑い引き止める声は、またもや三重奏
また綺麗にハモっていたけれど
もうソロじゃない
弾かれた訳じゃない
自らの意思で袖へと身を落とす
上げた手を心もとなく振りながら
目はしっかりスタジアム内への入り口を見ていた。
「ごめん…LINE、する」
気もそぞろな約束に
彼女たちが何かを言おうとしていたかなんて
気づくはずもなかった
彼の
焦凍のあんな表情を見て
ほっとくなんてこと
出来っこないもん。
「わかった、ちゃんと連絡してよ?」
「うん、じゃぁまたね!」
何かと気になってしまう緑谷くん
彼の事はさして心配していなかった
だって私にはちゃんと見えたもの
タイムアップ直前
常闇くんのダークシャドウくんが
焦凍の頭のハチマキをかすめ取ったところ
(きっと緑谷くんなら今頃号泣だ…。)
そんな所もヒーローっぽくないな
なんて思いながら廊下を駆ける
あの点数なら4位
最終種目には進出できる。
ホッと一息
残す心配は焦凍だけだ
向かうは学校関係者以外立ち入り禁止区域
彼の性格を考えれば人気のない所で
一人、思いに耽っていそうだと
思うほどに駆ける足は速くなる
ジャージを着てて良かった
走りやすい
それだけでも
この体育祭に参加してる
そんな気分になれた。