第28章 【空色】プラシーボ効果
~Sideハイリ~
「綺麗だった。」
「ぅ…ん。」
「すげぇ可愛かった。」
「ぅ、ぅん。」
「あ、いつもそう思ってるぞ?
たださっきのハイリがあまりに――…」
「も、もういいっ! 充分!!」
こんな会話
もう何巡目だろうか
バスタブの中で
後ろからがっちりとホールドされて
火照る耳に直接吹き込まれてく
もう耳にタコが出来るほど繰り返された言葉は
何度強制終了させてもリピートされてしまう。
贅沢な悩みだ
こんな素敵な人にこれだけ言われてるんだ
今くらい、愛されているのだと自惚れても良いだろう
茹だる頭はそう考えるけど
(心臓に、心臓に悪い…っ)
心はパニック
現在進行形だ。
明るい浴室内
当然肌を隠す布なんてない
だから一緒に入るのを
さり気無く躱し続けてたのに…
白く濁った湯がせめてもの救いだろう。
「お前…恥ずかしいの線引きが変だな。」
昨夜のアレは良くて
さっきのは駄目なのか?
低い艶やかな声がそう言って耳のすぐ後ろで笑う。
何を笑ってるんだろうかこの人は
場所や状況が変われば
恥ずかしくもなるでしょう
それがお風呂なら尚更…ってのは
結構自然な事なんじゃないかと思う。
(そもそも、焦凍に“変”なんて言われたくないっっ。)
この人は一般から大幅にズレている
そんな人の普通に適応できるわけがないでしょう!?
心の中で大声を張り上げて
お腹に回された腕を離そうと試みる。
振れる面積が大きいと
いい加減頭が回らない。
さっきまでは私も色々麻痺してて
焦凍を直視出来ていた
だけど理性を取り戻した今
入浴中のこの人を直視出来るほど
私の心臓は強くない。
対面していないだけ
まだいいのだろうか
それはそれで
「ハイリ柔らけぇ…。」
まるでぬいぐるみでも抱っこしてるかのように
離して頂けないこの状況に
脆い心臓が破裂しそうだ
ああ
論点バラバラ
もう何考えているのか
私もわからなくなってきた。