第27章 【空色】自性感情症
~Sideハイリ~
一秒にも満たない触れるだけのキスは
形容するなら優しいキスだった
優しすぎて
いじわるだ
駆け引きめいた間に
欲求を膨れ上がらせる以外の
効果はない。
わかってるくせに
言わせたいだけなんだ
優しい眼差しの奥に垣間見えるのは
捕らえた獲物を食べもせず
爪で転がして弄んでいる様な怪しい色
だけど
「ちゃんと、キス、して…」
そんな余裕、私には無いの
もう息する事だってままならないの
濡れた前髪をかきあげたその手で
頭を撫でられるだけで苦しくなるの
私の言葉に満足そうに細められたその目が
迫って来るだけで胸が張り裂けそうになるの
「良い子だ…。」
ピントのズレた照明が影に遮られ
ほたり、頬に雫が落ちた
ごほうびだと
囁きと共に再び重なった唇は
口づけと言った方がしっくりくる
深い交じり合い。
舌を結びながら溶けていく
(身体の境界線なんて
溶けて無くなってしまえばいいのに。)
ぐずぐずに溶けて崩れた脳で
そんなことを考えると
意を汲み取ったかのように
腰を抱き寄せられた。
――それだけか?
焦凍の目がそう聞いてくる
けれど
言いたくても言えそうにない
既に半開きの口から洩れるのは
酸素だけ
ただでさえ湿度の高い浴室で
呼吸する事すら難しい
小さく首を横に振ると
焦凍は問うた瞳を閉じて一度だけ笑い
「言わせてぇが…俺が限界だ。」
それだけ言って
熱の塊を押し当てた。