第26章 【空色】躁と鬱
~Side轟~
吸い込まれるように食堂へと戻っていったハイリは
去り際に背を向けた男に対して「ありがとう」と呟いた。
掻っ攫われたのとは少し違う
ハイリは自分の足で爆豪の指した道を選んだんだ。
事実、爆豪はとっくにハイリを手放している。
(だが…。)
感覚としては間違ってねぇ
掻っ攫ってったんだ
間違いなく。
ポケットに両手を突っ込み
睨み上げてくる。
視線は僅かに下からだが
見下してるかのような目の色は
とても同じ科の人間だと思えねぇ。
その姿は威嚇しているようにしか見えなかった。
「ちったァ見てやれや。」
声は低く
怒鳴りと言うより唸り。
いつもどおり凄んでいるように見えるが
その表情にはいつもない余裕が見えた。
壁にでもなってやったつもりか
生憎俺はお前に構ってるほど暇じゃねぇんだ。
爆豪がハイリの事をよく見てるのは認めるが
目先の優しさが何になる。
(てめェにアイツの何がわかる。)
相手にする必要はねぇ
思っていても口を衝いて出たのは
その余裕が癪に障ったからだ。
初めて感じる感情は
まとわりついて離れねぇ
不快以外の何物でも無かった。
「知った風な口だな
てめェには関係のねぇ事だろ。」
「あ"? 部外者ってんならてめェもだろうが。」
何を言われようが
相手する事はねぇ
頭ン中で呟いて視線を逸らす。
コイツに構う時間が勿体ねぇ
無理にでも視界に入ろうとする爆豪を尻目に
爪先は食堂を向いた。