• テキストサイズ

【ヒロアカ】UAシンドローム【轟焦凍R18】

第23章 【空色】自立神経失調症


~Side轟~


抑え付けられていた声は
許可を得た途端、火がついたように教室内に響き渡った。

泣き顔を見るのは初めてじゃねぇ
だがここまで声を上げて泣くのは


(初めてだな…。)


しゃくり上げながら
濡れゆくシャツを握りしめる

室内どころか隣の教室まで響かんばかりの声は
泣き声と言うより叫び声に近かった。

まるで赤子だと
柔らかな髪を撫で、頬を寄せながら思う。

毎日のように一緒に居て
随分長い付き合いのように思えるが
実の所そうでもねぇ。

初めての事が有ったってなんら可笑しくはねぇ

それでもこれは
かなり特殊なケースだって事はわかった。


























幾度なく、違和感を感じた事はあったが
確信を持ったのはつい先程

演習場のゲート前で
「泣きそうだ」と言った俺に
ハイリの親父さんが表情を崩した事

入学三日目の保健室
「泣いていい」と宥める
リカバリーガールの言葉を拒否していた事

教室で思い耽る時間がこんだけありゃ
嫌でも考える、これらの意味を。




演習場で見たハイリと目が合った時
縋る様な瞳は不安に揺らいでいた。

怪我をした緑谷を初めて見た
あの瞳より数段怯えきっていた。

泣いちまいそうだ
そう思って差し出した手は
本人によって振り払われた。



全て思い返してようやく繋がった。

不安気な瞳は
涙が込み上げそうになる
その感情を必死に抑えようとしてたんだろう





ハイリは――

人前で泣けねぇんだ






何がハイリをそうさせたのか
想像もつかねぇ。

ただ、今を逃したら
次はいつになるのかわからねぇ
それだけは確かだろうから


今は
好きなだけ、泣かせてやろう。




「…ごめ…っ…ね」

「謝る意味がわからねぇ。」




なんとか聞き取れた詫びに言葉を返す。

上げた顔は涙に濡れて
見た事もねぇくらいぐしゃぐしゃだってのに
場にそぐわねぇってわかってても笑みが漏れた。

それは恐らく、もう言葉を紡げない掠れた声が
「ありがとう」と言ったからで
全然笑えてねぇその顔があまりに綺麗だったから。


繕いのない表情を見せてくれた事にただ安堵し
赤く腫れ始めた目尻を指で拭いながら
濡れた唇にそっと口づけた。



/ 804ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp