第11章 【桜色】慢性合理的疾患
~Side轟~
持ち上げた細い顎を指先でなぞる。
ゆっくりと、触れるか触れないかの距離を保って
頬、耳へと形を確認するように。
俺の内側に火を付けた事なんざ
まるで気付いていないハイリは、されるがまま。
膝の上に顎を乗せてくる犬みてぇに
大人しく目を閉じていた。
「ハイリ…。」
名前を呼んだのはもう何度目か
未だ返事をしていない事を思い出したのか
ようやく開いた口は安心したように口角を上げる。
こんな薄暗い中でもはっきりとわかるその紅さは
熟れた果実の様だった。
「――…居ないかと思った。」
それだけ呟くと
ホッと息をつき
掴まれたシャツにも力が籠る。
欲に駆られる頭は
さも都合よく解釈するもんだ。
何をしても許されるんじゃねぇか
そう思っちまう。
「俺を探そうとしてたのか?」
「うん…。」
こくりと頷く小さな顔
そのあどけなさに湧き上がったのは
少し歪な感情だ。
大抵追い回してんのは俺の方だってのに
探そうとしてくれていた。
もう少しゆっくりして来ればよかった。
そんな発想すらコイツなら許してくれる。
そう思った矢先の言葉だ。
「良かった…シャツ1枚で風邪ひいたら大変。」
ありがとう、そう言いながら
背伸びをして俺の肩へとブレザーを掛けようとするハイリ。
コイツはきっと何もわかってねぇ。
こういうやつだ。
いつも人の心配ばかりしてんだ。
優しすぎるんだ。
近寄った優しい笑顔と甘い香りに
僅かにかかったブレザーは
俺の背を温めることなく
パサリ、音をたてて肩から滑り落ちた。
今夜の合図は
これで十分だ。