第9章 【桜色】カレカノ依存症
~Sideハイリ~
強引だとばかり思っていた轟くんの手は
今日に限って泣きそうになってしまう程優しい
壊れ物を扱うかのような力加減に
大切にされているのだと…
自惚れでも構わない、今はただ受け止めたい
そう思った。
触れられるほどに呼吸は増す、熱も上がる
なのに距離はなかなか縮まらない
どこかもどかしい
息を荒げるほどにそう考えてしまう私は
もはや羞恥を感じなくなるくらい、神経をやられてしまったのだろうか……。
バサリ、勢いをつけて落とされた衣擦れの音に
胸は大きく高鳴った。
自分の服が落とされた時より何倍も大きく。
昨日も不意打ちで見てしまったけれど
そんな比じゃない
忘れていた訳ではないけれど
彼は雄英ヒーロー科、しかも推薦入学者
鍛えてない訳がない。
夕日を受けて影が出来ている分
その筋肉質な体は、より鮮明に映し出されて見えた。
その姿にカッと頭が熱を持つ
彼は男なのだと今更ながらに実感してしまう。
普段の物静かな印象はどこへ…
荒々しく息をつき、再び覆い被さって来る
口をふさがれるまでの僅かな間が
永遠にも等しく思えた。
急に縮まった距離に、もう戸惑いなんて無い。
様子を窺がってくれていた事は十分伝わっていた。
緊張はもちろんあったけど
それだけで覚悟を決めるには十分だ。
それでも念を押すように「我慢するな」というその目に
知らない感情が芽吹く
きっとこういうのをいうんだ
愛おしい…と
「やめないで…」と答えながら
頭の隅でそんなことを考えていた。