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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第107章 【番外編】煙の奥の狂気


るるさんたちが卒業間近になった寒い春の日。
在学生の俺達の練習は相も変わらずキツかった。
体育館裏で水を飲んでいると烏養さんが声を掛ける。
「身体冷やすと体調崩すぞ、ジャージ着とけー」
「…す」
何気ないやり取りだったが、横の日向がにこっと笑いながらジャージを差し出してくる。
「なんか、雰囲気やさしーよなー」
特に何も思わなかったが、確かに…とも言われてから思う。
もともと面倒見のいい人だとは思ってたが、照れか性格か、突き放すような態度がどこかあったように思う。
(自分のことは棚に上げて何を……)



もうすぐ、るるさんと二人で住むという話をぼんやりと噂で聞いた。
さぞ二人共それが楽しみなのだろう。
中学の時とは違って、明るく、幸せそうで、くるくると表情を変える姿は、こちらも見ていて胸がざわつく。
最後にやはり、この気持ちを伝えるべきかと悩んでいた。
話しづらくなってしまいそうで、イマイチ踏ん切りが付かない。
このままふわふわとしたままでいいのかもしれない。
相変わらず、甘い香りに混じって煙草独特の煙たいにおいがする。
鉛のようにそれが肺に落ちていき、嫉妬でもなく、諦めでもなく、そわそわとさせてくる何か。
欲とも言えるような……。

乏しい知識で創造する妖艶な白い肌と、それを這う大きな手。
煙を部屋に充満させ、可愛らしい啼き声を聞く。

じっとりと背中が濡れていくほどわかる、欲。

(ヤバ……落ち着け……)
知り合い同士の何を想像してるんだか。
自分に引いて今度は青ざめていく。
「どした?」
「いや、なんでもねえ」
そう答えるのが精一杯だった。
寒気がし始め、いい加減受け取ったジャージを羽織った。

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