第76章 【番外編】推しが尊すぎて直視出来ない
お付き合いをさせていただいてかなり経つというのに、私はどうしても克服しなくてはならないことがあった。
「るる先輩、今の観てました?」
「……み、みてない…」
「またぁ!?」
繋心さんが、時々眩しすぎて直視出来ないことがある。
隣にいる日向くんが呆れながら大笑いしている。
「いや、今のはダメですよ!スゴかったんですよ!」
「ろ、録画したの、見る…」
さすがに今日の試合こそは観れる、と私は昨日の夜から信じて疑わなかった。
それでも、いざ館内に入り、いざしなやかな筋肉を目の当たりにしてしまうと、それはかなり難しい問題。
「どうやって一緒に暮らしてセックスしてるんですか?」
嫌みのように月島くんが嘲笑いながら聞いてくる。
「そ、そうだよね……どうやって生活してるんだろう、わたし……」
言われてみればそれは至極全うな台詞で、私は普段の自分を疑い始めた。
「わかった!なんか、ヒーロー物みたいな感じなの!
普段は、あそこまで、輝いてない!」
「失礼すぎるっ」
「だって、普段は…トイレ行くところもご飯食べてるところも、そういう面を見ているわけじゃない?
でも、真剣モードになると、ヒトじゃないみたいな…同じ人類じゃないみたいな…」
ふわふわな説明しか出来ないまま、ホールの椅子に座り、影山くんが録画したものを見せてくれた。
「無理…、薄目でしか見れない…」
確かに初めて観たときは釘付けだったから、瞬きも忘れていたのに、日を増すごとに好きになってしまっていて、もう脳みそが追い付いていない。
私生活ですら、たまに顔を反らしてしまう。
「なんだっけ、そういうの。
『尊い』って言うんだっけ」
「それだ!」
しっくりした言葉をやっと見つけて、私は手を鳴らした。
「るる先輩のおつむが残念なことは千も承知で聞くけど、何がいいんですか?」
「教えると、月島くんも好きになっちゃうから秘密!」
「先輩の脳みそはお豆腐だということが確認出来ました」